許されないシンボル・イメージとは何だろう? それは常に文化に依存するのだろうか?
イスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)の政治風刺画を、デンマークの新聞が掲載し、イスラム教諸国及び国内でも抗議のデモなどが起きている、というニュースを目にした。
最初に掲載されたのは昨年の九月らしい。その後、ヨーロッパの複数の新聞がその風刺画を掲載したこともあり、イスラム教徒の怒りを買っているという。
何が問題になっているのか。上記のブログによると、
イスラム教では、預言者ムハンマドの肖像を描くことは神にたいする冒涜だとされる。たとえ尊敬の念をこめての肖像でも、偶像崇拝に結びつく可能性があるため、許されないこと、とされている。
ということだ。
この「偶像崇拝の禁止」という概念、言葉では知っていても(日本社会の中で育ったものには)もうひとつピンとこない。
もっとも、米ABCのニュース番組『Nightline』(2006年2月8日)では、デンマーク在住?のイスラム教の聖職者アブ・ラバン師が 「ムハンマドを笑いのネタにしたことが一番の問題」 と語り、米ジョージタウン大学のイスラム教聖職者ヘンリー師も 「イスラム教徒は、ムハンマドが風刺画に描かれたことよりもむしろその描かれ方に腹を立てています。ムハンマドは血なまぐさいテロリストとして揶揄されました」 と説明しているので、風刺画の内容が自分たちの信仰を侮辱していると感じている面が強いようだ。(多くのイスラム教徒は問題の風刺画を見ておらず、伝聞で怒りが広まっているのだろう)
以下、今回の事件とは直接には関係ない考えごと。とりとめもなく。
現代の西欧の文化においては、新聞の風刺画における「表現の自由」はかなり広いと思える。Newsweekの漫画欄を見たところ、為政者(政治家)やイギリス王室の人々、俳優その他の著名人いずれもが(ときとして)相当に侮蔑的に描かれる。イラク・アブグレイブ刑務所での米兵のイラク人虐待にからんだ風刺漫画では、ラムズフェルド国防長官を「マルキ・ド・サドの本を抱え、SMの女王様の格好をした」姿で描いているほどだ。神様をネタに使った漫画も珍しくはないように思う。
現代の日本の場合は、天皇・皇族はまだタブーになっているのだろう(彼らを痛烈におちょくった風刺漫画を思い出せない)。イギリス王室とはかなり違いがある。
中世のヨーロッパにおいては、神やイエス・キリスト、あるいは教会に対する風刺は厳しく処罰されたのだろう。為政者に対するものも同様だっただろう。
現代の西欧においてはあまりイメージのタブーは無さそうだなぁ、と考えていてやっと思いついた。ひとつはナチスドイツが使っていたハーケンクロイツ(鉤十字)。これは単なる記号だけれど、激しい非難の対象となる。また、9・11のWTC崩壊の映像も(現時点では)タブーとして扱われているように思われる。
社会における「好ましくないイメージの規制」について考えてみると、映画に対する検閲・規制がある。アメリカにおいてはMPAA(アメリカ映画協会)が自主規制として数段階の規制を行なっているし、日本にも映倫(映画倫理協会)による自主規制がある。規制されるものとしては、暴力描写・性的な描写が中心だが、それ以外にもタブーはあるようだ。またそれらは社会の変化にしたがって変わってきている。
(追記) Newsweek日本版(2006.2.15)に、デンマーク紙「ユランズ・ポステン」(最初に風刺マンガを掲載した)の記者?フレミング・ローゼへのインタビュー記事が掲載されている。それによると、デンマークでは人種差別や神への冒涜が法律で禁じられているという。